本研究分野が実施している研究を以下に列記します。
医療機関における加速器BNCT臨床につながる非臨床橋渡し研究
BNCT適応疾患拡大のための正常組織に対するBNCTの感受性、耐容線量の検討
正常組織は複数の細胞群で構成され、ホウ素薬剤がどの細胞群に分布するかにより、BNCTの早期、晩期有害事象の発現は大きく異なってきます(下図参照)。新規ホウ素薬剤の開発には、腫瘍に対する治療効果のみではなく、特に晩期有害事象に関する検討は重要です。放射線治療の限界は許容できる有害事象、特に晩期有害事象により規定されます。BNCTは放射線治療に分類されますので、正常組織に対するBNCTの影響研究は極めて重要です。
新規ホウ素薬剤開発、ホウ素薬剤到達研究を行う研究室との共同研究
粒子線腫瘍学分野は、新規ホウ素薬剤、ホウ素薬剤担体を開発する研究室ではありません。国内外の新規ホウ素薬剤開発研究、薬剤到達研究(Drug delivery system, DDS)を実施している研究室と共同研究を実施しています。開発された新規ホウ素薬剤、ホウ素薬剤を担持したナノ粒子デバイスの開発コンセプトの実証研究(Proof of Concept)に必要な複合研における中性子照射実験に関して、適切な照射方法の検討、助言、照射実験の補助、実施などを担当しています。
BNCTと免疫療法の併用療法に関する基礎研究
免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤が、多くの癌腫に効果があることが明らかになり、今後、がん治療において重要な役割を果たすことが期待されている治療法です。粒子線腫瘍学分野概要のページで示しましたBNCTの特長である「ホウ素中性子捕捉照射」が、腫瘍免疫に与える影響を検討することにより、BNCTと免疫療法の併用療法に関する基礎研究を実施しています。
放射線腫瘍学、放射線生物学研究におけるホウ素中性子捕捉照射の適用研究
ホウ素中性子捕捉照射をがん治療のみではなく、放射線腫瘍学、放射線生物学の研究ツールとして発展させていくための基礎研究を実施しています。
伴侶動物に対するBNCTの基礎研究(獣医学へのBNCT研究の展開)
粒子線腫瘍学研究センターは、大阪府立大学獣医臨床研究センターと、BNCTの獣医学分野への適応拡大の共同研究を実施しています。
計画をしている研究の1例として、下図を示します。
ヒトのがん治療におけるBNCTの弱点は、照射する中性子線が体の深部まで達しないことです。伴侶動物であるイヌ、ネコの場合、その体のサイズから全身どの部位でも、1方向、あるいは2方向から中性子を照射することにより、治療に十分な中性子量を照射することが可能です。また、BNCTは1回の治療で終了することは、放射線治療の実施にあたり、全身麻酔が必要な伴侶動物の治療に適しています。図に示すように、人ではBNCTの実施が現状困難な、多発肺転移腫瘍、多発肝転移腫瘍の治療研究にまで発展させていきたいと考えています。
現在、図の左にあるようにビーグル犬などの実験動物を使用した全頭部照射、全胸部照射、全腹部照射の照射実験の実施を計画中です。
ガドリニウム中性子捕捉療法の基礎研究
ガドリニウム化合物を用いた中性子捕捉療法は、ガドリニウム(157-Gd)が熱中性子を捕獲しガンマ線およびオージェ電子を放出する反応を利用します。オージェ電子は、ナノメータレベルの短飛程であることから、オージェ電子により、殺細胞効果をもたらすには、細胞障害性のターゲットまでガドリニウム化合物を送達させる必要があります。
ホウ素薬剤と同じく、本研究分野はガドリニウム化合物を開発する分野ではありませんが、国内外の研究室との共同研究として、ガドリニウム中性子捕捉療法の特にオージェ電子の寄与についての基礎研究を進めていきます。